19.メイルトレイン

 「お昼頃クルナを出るラジシャヒ行きがあったと思うよ。」そう言われてクルナ駅にやってきました。
 駅の時刻表を見ると12:30発モハノンダ・エクスプレス、チャパイ・ノバブゴンジ行とあります。インターシティではありません。「メイル・アンド・エクスプレス・トレイン」と一括りに呼ばれる急行列車です。切符売り場で「ラジシャヒまでファーストクラスで」と言ったら、「ファーストクラスは良くない」との答え。いいから下さいと言って切符を買ってプラットホームへ。

 列車はもうホームに止まっています。ホームには乗客と物売り。乗客はもう乗り込んでいます。一等車、一等車、と。ありました、1両だけ。古ぼけた寝台車両で、コンパートメントになっていますが、黒いビニールレザーのシートはところどころ破れて穴があいています。本来寝台車なので、ベッドを立てた状態のシートはあまり座り心地の良いものではなさそうです。1両ぜんぶ見回してみても軍人さんが2人座っている以外ほかにだれもいません。片側は通路なので写真も撮りにくそうです。

 私は再び切符売り場へ戻って、「見てきたけど確かに1等車は良くない。2等車に替えて下さい」といって、差額を払い戻してもらいました。2等の切符はピンクの厚紙で出来た昔風の硬券で、ベンガル語で「2等メイル、クルナよりラジシャヒ、307キロ30タカ」と印刷されています。裏には「男の子でも女の子でも、二人出来ればそれで十分」と家族計画の標語が印刷されています。

 再びホームへ戻ると、機関車のすぐ後ろの2等車に乗り込みました。座席は、通路を挟んで左側に3人掛けの向かい合わせ、右側に1人掛けの向かい合わせになっています。鉄板むき出しのシートで長時間座っているとケツが痛くなりそうです。私は1人席に座って出発を待ちます。座席もほとんど埋まってきました。運転士が機関車に乗り込みます。警笛が鳴っていよいよ出発です。

 機関車のすぐ後ろの客車に乗っていると、ディーゼルのデロデロいう音と一緒に、ときどき煙が窓から入ってきます。まあ、苦になるほどではありません。

 クルナ近くの車窓には、ダッカではあまり見られないケジュール(なつめやし)の木が目に付きます。ふつうのヤシに比べて背が低く、葉は短い櫛の歯状になっています。幹が互い違いに彫り込まれたようになっているのは、樹液を取るために削り取った跡です。甘い樹液を煮詰めて糖蜜を作るのです。男たちがケジュールの木に登って糖蜜取りの準備をしているのが見えます。幹のてっぺんで片側の枝葉をはぎ取って表面を削り、そこへ細い木の棒を打ち込み壷をぶら下げていきます。にじみ出した樹液は棒を伝わって壷に流れ落ちる仕掛けです。
 列車は2〜3駅に1回の割で停車しながら走ります。しかし追い抜いて行く列車もなく実にのんびりとした旅です。

 ときどき反対方向の列車とすれ違います。単線区間では正面衝突を防ぐために、通票を持っている列車だけが走行できる仕組みになっています。すれ違いの駅ではこの通票を互いの列車で交換します。直径50センチぐらいの細いリングに、穴のあいた金属製のボールが結びつけられています。

 メイルトレインで長距離を旅する人は少ないです。始発のクルナから私の向かいに座った男性はジョソールで降りていき、サリーを着たおばさんが座りました。
 通路左側の席では、向かい合った座席の間に一枚の布を張り渡し、あぐらをかいて座った6人がポーカーに興じています。布は、チャドールといって寒い季節に身にまとうシーツほどの大きさの四角いものですが、こんな使い方もあるものです。そこへ、鉄道警察官が車内の巡回にやってきます。男たちはあわててカードを隠して知らん顔をします。賭け事は御法度なのでしょう。

 刈り取りを終わった田圃では、刈り取った稲を荷車に積み込み、男も女も小さな子供も、家族総出で落ち穂拾いをしています。

 線路端に時々現れる勾配標は千分の1〜2という勾配を示しています。ほとんど真っ平らです。
 日が暮れて室内灯がともり、保線工が5、6人、道具を担いで乗り込んできました。窓の外は真っ暗。林の中に点々と人家の明かりが見えます。外の空気が冷たくなってきたので窓を閉めます。うとうとと居眠りをしながら、なおも列車に揺られて旅は続きます。
 ごーっという音に目が覚めると、列車はガンジス川の鉄橋(ハーディング橋)を渡っていきます。20スパンほどもあろうかという長い鉄橋ですが、暗くて川の様子はよく見えません。
 ラジシャヒ駅に到着したとき、夜も10時近くなっていました。

メグナ川鉄橋(東部線ボイロブ・ブラモンバリア間)

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