バングラデシュが平坦なデルタであることは知識として知っていましたが、遥か彼方の地平線が見えるという私の期待は、見事に裏切られました。バングラデシュの田園地帯で見える風景は、足元から始まる田圃と2〜300メートル先の森。そこから先は見えないのです。遠景がないのです。遠くが見たくて高さ30メートルほどの給水タンクに登ってみたことがあります。でもやはり景色は数キロ先の森で終わっていました。
ボグラ職業訓練校の給水塔

一見すると、森は切れ目なく続いているように見えます。しかし近寄ってみると、森と見えたのは実は屋敷林で、至る所に人が住んでいることがわかります。木々が家屋を覆い隠して見えなくしているのです。洪水にも水没しないように他よりわずかに高く盛り上げられた場所に、人々は木を植え、家を建てて暮らしています。飛行機で上空から見ると、バングラデシュの田園は稲田と林のパッチワークです。巨大なデルタはすべてが人里なのです。世界一の人口密度とは、実にこのようなものだったのです。
木々は強い日差しをやわらげるとともに、また様々な果実をもたらします。ココナツ、マンゴー、パパイヤ、ジャックフルーツ。熱帯の樹木は成長が早く、30年もすれば立派な大木になり、材木や薪として売られます。バスの行く街道にも両側に樹木が植えられ、大きく茂った枝はまるで緑のトンネルを行くようです。
