1.鉄道の魅力

 バングラデシュの人々の生活をじかに見たいなら、バスより鉄道です。

 鉄道沿線に暮らす人々にとって、列車は目の前をただ通り過ぎるだけのもの。自分たちの生活の中に入り込んでくることはありません。ですから、住民たちは臆することなく生活をさらけ出します。

 ダッカのコムラプール駅を出るとまず目に入るのは、スラムに住む人々。裸で走り回る子供たち、チェスに興じる男たち、粉をひき竈に火をくべる女たち、隙間なく建ち並ぶ薄暗い竹小屋の中に垣間見える彼らの暮らし。
 列車が巻き上げる砂埃を気にする様子もなく線路端で商いをする人々。米、粉、香辛料、干し魚。寝具屋で真っ赤な布団を縫う男。ニスを塗る家具屋。青い火花を上げて窓の鉄格子を作る溶接屋。

 街並みを抜けると、あとは行けども行けども田んぼと林が混在する平坦な田園地帯。ここでも線路は生活の場です。線路を歩いて往来する人々。畑に向かう男たち。青いサロアカミューズを着た学校帰りの女学生たち。黒子をかぶったイスラムの女たち。自転車を引く男。荷物を満載したリキシャ。

 地べたに籾を広げて干す女。日に干される布団。燃料にする牛糞を干す女たち。束ねられたジュートの茎の三角帽子。
 線路脇で草を喰む山羊や牛、それらを引き連れる子供たち。牛に鋤を引かせて畑を耕す男。畦道をはしゃいで歩く子供たち。ナツメヤシの幹に登って糖蜜を取る男。

 池に網を打つ老人。ヤシの丸木舟で魚を釣る男。池でサリーを着たまま水浴びをする女。水路をゆくエンジン付きの小舟。一面の洪水が少しずつ引きはじめ、田圃の準備をする人々。

 平地ばかりで単調に見えるバングラデシュの風景の中に、人々の様々な暮らしが見えてきます。


Copyright (C) 1998 Yasuyuki Sakai