地名の慣用表記について

バングラデシュで用いられているベンガル語のローマ字表記(音訳)は、多くの場合実際の発音からずれています。「a」と書かれている音の半分くらいが実際には「オ」と発音されます。そらくこれはヒンディー語との一貫性を保つために行われたことだと思うのですが、外国人にとってはやっかいな問題です。

当サイトでは旅行者やバングラデシュで生活される人の便宜を考えて、実用発音を重視した編集をしています。時刻表に用いたカタカナ表記とローマ字表記はいずれも実用発音です。路線図には実用発音と慣用表記の2種類のローマ字版を用意しました。

英語的慣用表記がベンガル語から大きく離れて定着してしまった地名は、そちらを優先して使用しました。

例:チッタゴン(チョットグラム)、マイメンシン(モイモンシンホ)、コミラ(クミッラ)

慣用表記について

"Narayanganj"と慣用的に書かれる地名は「ナラヨンゴンジ」と発音されます。この食い違いが生じる仕組みは以下のようなものです。

ベンガル語の綴り字を分解すると"narayngnj"です。後半4文字は母音字を伴っていません。しかし、ベンガル文字には暗黙の母音が含まれていて、発音は「オ」です。英語でいえば"top"の"o"で、aとoの中間の音ですが、日本語の「オ」にとても近いです。nの子音字は単独で読むと「ノ」です。暗黙の母音は発音する場合としない場合があります。一般に語尾の単独子音に「オ」は付きません。この例では、「ナラヨン」(ヒンドゥー教のビシュヌ神)、「ゴンジ」(市場)という2語が連結してできたものなので、それぞれの語尾に当たる文字は母音を持ちません。

一方、ヒンディー語の暗黙の母音は「ア」です。これに従って暗黙の母音を"a"で表記すると、"Narayanganj"となります。こんなことをする利点は何かといえば、ヒンディー語と共通の語源を持つナラヨンのような単語が、2つの言語の間で統一された綴りで書き表わされる、といったことでしょうか。日本と中国が同じ漢字を使っても発音が異なるようなものです。

もうひとつ、ベンガル語には(そしておそらく多くのインド諸語にも)チョンドロビンドゥ(月と点)という記号があります。これは、母音の鼻音化(音が鼻に抜ける)を表す記号なのですが、英語にそのようなものがないので、ローマ字のnを使って書き表わされます。

ここで「〜」で示したチョンドロビンドゥは、aoという一組の母音を鼻音化します。慣用表記では鼻音化される母音の後に「n」を置くので、Tejgaonとなります。しかし、鼻音化による音の変化は実際にはそれほど大きなものではなく、「テズガオン」より「テズガオ」の方が実際の発音に近いです。

英語的慣用表記

バングラデシュは、古くはイギリスの植民地である「インド」の一部でした。またイギリスからの独立後はパキスタンの一部となり、公用語はウルドゥー語となりました。これら歴史の名残で、地名の中には綴り字でベンガル語と対応せず、発音も異なっているものがいくつかあります。

英語的慣用表記 本来のベンガル語
チッタゴン Chittagong チョットグラム Chottogram
(Chattagram)
マイメンシン Mymensingh モイモンシンホ Moymonshingho
キショルゴンジ Kishoreganj
Keshoreganj
キショルゴンジ Kishorgonj
コミラ Comilla クミッラ Kumilla
シレット Sylhet シレット Silet
ジェソール Jessore ジョショール Joshor
ナトール Natore ナトール Nator
ボグラ Bogra ボグラ Bogura
ソイドプール Saidpur
Saydpur
ソイエドプール Soyedpur
ナワブゴンジ Nawabganj ノバブゴンジ Nobabgonj
ダッカ Dacca ダッカ Dhaka

首都ダッカは「Dhaka」を正式な表記として改められましたが、その他は英語的慣用表記で書かれます。

ChittagongとMymensinghは発音もずれていますが、あまりにも定着しているので英語的発音で話しても通じます。


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